所有者不明土地の問題とは?課題・参考になる対策を事例付きで解説します
所有者の調査が難しい、連絡のとれない所有者がいるなどの土地は、整備や活用が進まず荒れる等問題になっています。
所有者の調査、国が土地を取得できるまでの仕組みなどに、所有者不明土地を生む原因があると考えられます。
所有者の分からない土地はなぜ問題であるのか、事例とあわせて解説します。
目次
所有者不明土地とは
- 不動産登記簿などで所有者が分からない
- 所有者と連絡がとれない
上記の土地のことです。
以下のようなことが原因で、所有者不明土地になります。
- 相続登記されていない
- 共有者全ての氏名が書かれていない共有地(「〇〇〇〇他●名といった表記) など
平成28年度の国土交通省の地籍調査によると、所有者を確認できない土地は、20%程度あります。
所有者不明土地の問題
- 所有者の調査に時間も費用もかかる
- 国や地方自治体が公共事業用に土地を取得するための手続きが難しいケースがある
- 公共事業用に土地を取得すること自体が難しい場合もある
所有者が分からなければ、国や地方自治体が公共事業用に土地を取得できる制度があります。
しかし、利用が難しいケースに当てはまると、所有者の分からない土地の活用は難しいです。
所有者が分かっても、土地を利活用したいという人がいないと、土地が管理されないままです。
土地が適切に管理されないと、公共事業や復興・復旧事業、民間の取引が進みません。
隣接する土地にも悪影響を及ぼします。
たとえば、雑木が生い茂ることで不法投棄や放火の危険があるなどです。
以下のような取り組みの検討が必要です。
- 国・地方自治体が公共事業用に土地を取得できる制度が簡単になる
- 取得できない時の公共事業への対応 など
人口減少で、所有者不明土地が増えることが懸念されています。
そんな今、所有者の調査を簡単・スムーズにできる仕組みづくりが求められています。
所有者不明土地の事例。何が課題になった?
「土地収用法における不明裁決制度」では、公共事業用に国・地方自治体が土地を取得できます。
しかし、所有者の調査などの手続きにかかる時間・費用が課題に挙げられています。
「土地区画整理事業」も、対応方法のひとつです。
土地区画整理法第133条で、所有者が分からず事業に必要な書類を送れない時には、書類内容の公示で送付と見なされます。
第百三十三条 施行者は、土地区画整理事業の施行に関して書類を送付する場合において、送付を受けるべき者がその書類の受領を拒んだとき、又は過失がなくてその者の住所、居所その他書類を送付すべき場所を確知することができないときは、その書類の内容の公告をすることをもつて書類の送付にかえることができる。
引用元:土地区画整理法
では、所有者不明土地の事例と問題になったこと、対応についてご説明します。
公共事業用の土地取得
土地取得までにかかった時間が浮き彫りになった事例です。
一般国道の新設を計画していました。
ところが、取得したい土地が最後に登記されたのが明治時代でした。
調査をしたところ、148人の法定相続人がいることが判明しました。
中には、戸籍が存在しないなどで特定できなかった相続人もいます。
約3年間の手続きを経て、不明裁決制度で土地を取得できました。
※法改正で、土地を取得したら登記が義務化されるようになります。(2024年4月~)
公園への整備が進まない事例
最終的に公園にするため、まずは広場・グラウンドにしたい土地がありました。
該当の土地の範囲には、相続登記されておらず、所有者不明の土地が含まれ放置されています。
整備が進まないことで、以下のような問題が生じます。
- 植樹の伐採などができず、景観を保てない
- ゴミの不法投棄
公園整備までできる状況ではないため、公共事業用に土地を取得する制度は利用できません。
そこで、広場・グラウンドとしての利用も検討されました。
しかし、所有者不明の問題を解決できないため、計画を立てられないのが現状です。
地域で土地の利用・管理が進んだ事例
所有者不明土地は、地域住民や行政などの協力で土地を利用・管理できる仕組みや制度が必要では?と考えられています。
そこで、所有者不明土地を地域で活用できるようになった例を紹介します。
杉並区のポケットパーク
区と都が事業のために取得した土地や、民間からの申し出で区が原則無償で借りた土地を、遊び場として区で整備・管理しています。
※ポケットパークとは、団地やビル街に設けられた小さな公園のことです。
神戸市の防災整備
家屋が密集したエリアを整備し、活用した事例です。
家屋が密集していると、火災が広がりやすいです。
そこで、延焼防止のため、老朽化した木造建築物を除却しました。
跡地は、防災活動のための空地になりました。
普段は、広場や遊び場として活用されています。
毛呂山町の空き家・空地取得を進める働きかけ
埼玉県毛呂山町には、昭和30年代に多くの住宅が建てられました。
現在の基準で建てられる建築物より、狭く・小さいものが多いです。
そこで、地元の不動産業者と協力し、空き家・空地が生じた際、隣地の住民などに購入を働きかけることにしました。
隣地の取得のおかげで、住宅や事業用の土地が広がりました。
所有者不明土地の問題・課題はどのように解決されるか?
登記されていないなどで所有者が分からない、所有者と連絡がとれないなどの土地は、整備や管理が進まず荒れてしまいます。
所有者の調査に難航したり、国などが土地を取得できないことは、公共事業や民間の取引が進まない、隣地に悪影響を及ぼすなどの原因です。
相続登記の義務化と共に、所有者の調査の簡素化、所有者不明土地を地域で活用できる制度が整備されています。