家賃収入への税金対策|節税方法と税金の種類・計算方法も解説
不動産経営をしているものの、家賃収入への課税額が高く悩んでいるという方もいるでしょう。家賃収入には所得税・住民税がかかり、これらの税は所得額が高ければ高いほど納税額も高額になってしまいます。しかし、さまざまな工夫によって課税所得を減らし、税金対策を行うことが可能です。
当記事では家賃収入への税金対策の方法を詳しく解説します。経費として計上できるお金についても解説するため、不動産経営に関わるお金の問題について知りたい方はぜひ当記事を参考にしてください。
目次
アパート・マンション経営にかかる税金
家賃収入などの不労所得に魅力を感じ、アパートやマンションの経営を始めた方もいるでしょう。不動産事業・賃貸経営では家賃収入などの不労所得が定期的に入ってくる一方で、さまざまな税金がかかる点に注意が必要です。
ここでは、アパート・マンション経営に関係の深い税金の概要とともに、それぞれの税金を納める必要があるケースについて解説します。アパート・マンションの経営にかかる税金について詳しく確認し、納めるべき税金への対策を十分に検討しておきましょう。
所得税
アパートやマンションの経営により、家賃収入などの不動産所得を得た場合、不動産所得に対して所得税・復興特別所得税がかかります。
所得税・復興特別所得税とは、個人の所得に対して課される税金のことです。1月1日から同年12月31日までの1年間の全所得から、所得控除を差し引いた金額を課税所得とし、課税所得に税率を適用することで納税額が算出されます。
所得税は「累進課税制度」というシステムが採用されており、課税所得の金額が多くなるにつれて所得税率も段階的に高くなります。給与所得や事業所得など他の所得がある方は、これまでの所得に不動産所得が増えることで所得税率が上がり、納税額が増える可能性がある点に注意しましょう。
出典:国税庁「所得税のしくみ」
住民税
アパートやマンションの経営によって不動産所得を得た場合、所得金額に応じた住民税も課税されます。
住民税(個人住民税)とは、その年の1月1日時点において市町村・都道府県に住所がある方に課される税金です。住民税の納税額は、定額の「均等割」と所得金額に応じた「所得割」の2つを足し合わせた金額になります。
住民税は、主に上下水道やごみ処理、学校教育といった行政サービスの活動費用に充てられるという性質の税金です。所得割の税率は課税所得に対して10%であり、所得税のような累進性はありません。ただし、課税所得が多くなるにつれて納税額も大きくなる点には注意が必要です。
出典:総務省「個人住民税」
固定資産税・都市計画税
経営するアパートやマンションを自己所有する場合、土地や建物に課される税金である固定資産税や都市計画税も納める必要があります。
固定資産税とは、土地や建物、お店の設備、パソコンなどの事業用資産(償却資産)といった固定資産に課される税金のことです。登記簿や各種の台帳に所有者として登録されている方に納税義務があると覚えておきましょう。アパートやマンションの所有者が自分である場合は、市町村の評価に基づいて算出された固定資産税を納める必要があります。
また、アパートやマンションがある地域によっては、都市計画税の納税義務が発生します。都市計画税とは、都市計画事業および土地区画整理事業を行う市町村が、都市計画区域内にある土地・建物に対して課する税金のことです。
ただし、所有しているアパートやマンションに都市計画税が課税されるかどうかは、自治体や事業の内容などによっても異なります。市町村が都市計画税を課す場合は条例が必要となるため、該当する条例があるかどうか事前に確認しておくとよいでしょう。
出典:総務省「固定資産税」
出典:総務省「都市計画税」
個人事業税
個人事業税とは、個人が行う事業のうち、地方税法などによって定められた事業(法定業種)に対して課される税金のことです。法定事業には第1種・第2種・第3種という分類があり、不動産貸付業(アパート・マンション経営)や駐車場業(アパートなどの駐車場経営)は、第1種事業(税率5%)に該当します。
アパート・マンションの経営が不動産貸付業に該当するかどうかは、事業規模で貸付が行われていると判断されるかどうかによります。一般的には、空室を含めて10室以上の貸付を行っていると「不動産貸付業を営んでいる」とみなされ、個人事業税が課されるようになります。
なお、個人事業税は、所得金額から事業主控除290万円を差し引いた金額に税率を適用し税額が算出されます。所得金額が290万円以下の場合は、個人事業税を納める必要がないことを押さえておきましょう。
消費税
消費税とは、商品の販売およびサービスの提供に対して課される税金のことです。アパート・マンションを居住用として貸し付ける場合、家賃は消費税の課税対象ではないため、消費税を納税する必要はありません。一方、アパート・マンションを、事務所や店舗など事業用の建物として貸し付ける場合には、家賃に消費税が課される点に注意が必要です。
また、アパート・マンションを事業用として貸し付けている場合は、2023年10月1日より導入される「インボイス制度」への対応も検討する必要があります。家賃収入(売上高)や借主の状況(免税事業者か課税事業者か)などを総合的に判断し、インボイス制度への対策を検討しましょう。
家賃収入に含まれるお金
アパート・マンションの経営では、入居者から家賃をはじめとして礼金や更新料、敷金、管理費といったさまざまな名目のお金を受け取ります。課税の対象となる「家賃収入」には、家賃だけでなく礼金などの賃貸に関わるさまざまな項目のお金が含まれていることを押さえておきましょう。ここでは、家賃収入に含まれる6つの項目について詳しく解説します。
家賃
家賃とは、アパートやマンションなどを、自分・家族以外の個人や法人に貸し付けた見返りに受け取る金銭のことです。毎月受け取れる家賃は、賃貸借契約が継続している期間中は定期的に発生する収入であり、不動産所得の大半を占める項目でもあります。
賃貸借契約で家賃の支払日を定めている場合は、その支払日に家賃収入を計上することが一般的です。支払日を決めていない場合は、実際に支払われた日に家賃収入を計上しましょう。
なお、家賃を計上する際の勘定項目は、アパート・マンション経営を行っている方の状況によって異なります。個人の場合は「不動産所得」、個人事業者(個人事業主)としてアパート・マンション経営を行っている場合は「売上」を選択しましょう。
礼金
礼金とは、アパートやマンションの貸主に対して、借主がお礼の意味を込めて渡す金銭のことを指します。これは、現在よりも賃貸物件が少なかった時代に、住居を借りるお礼として借主が貸主に金銭を渡していたという慣習が現在も続いているものです。
最近では礼金ゼロの物件も増えてきましたが、敷金と併せて礼金を設定している物件も多数存在します。礼金の相場は地域によって変動しますが、家賃の1~2か月分であることが一般的です。礼金は敷金とは異なり、借主が退去する際に返金する必要がないため、家賃収入として計上します。
更新料
更新料とは、借主が賃貸借契約を更新する際に、貸主に対して支払う金銭のことを指します。賃貸借契約は2年ごとに更新されるのが一般的です。賃貸契約書に更新料について明記している場合には、契約更新のタイミングで貸主は借主に更新料を請求できます。
更新料の有無や金額の相場は地域によって大きく異なりますが、更新料を設定する場合は家賃1か月分程度が目安となります。更新料の支払いを受けたら、家賃と同様に計上し、更新日の年分の不動産所得の総収入金額に算入しましょう。
入居者に返還しない敷金や保証金
敷金や保証金は「借主が退去する際に必要となる部屋の修繕費」や「家賃を滞納した場合の担保」として、賃貸借契約を締結した際に入居者が貸主に支払うお金のことです。礼金とは異なり、敷金や保証金から修繕・クリーニングの費用を差し引いた残額(余剰金)は、入居者(借主)に返還しなければならない点に留意しましょう。
敷金・保証金は借主からの預かり金であり、受け取った時点では収入にはなりません。しかし「原状回復の費用に充てた」など、敷金や保証金を借主に返還しない場合は、返還しないと決まった日に、不動産所得として計上する必要があります。
管理費・共益費
管理費とはアパート・マンションの建物を維持管理するための費用、共益費とは借主(入居者)の共用部分に使用される費用のことです。管理費や共益費は、主に共用部分の水道光熱費や火災保険などの保険料、電球などの消耗品の購入費用、マンション内の修繕費用などに使用されます。
管理費や共益費の相場は家賃の5~10%程度であり、毎月の家賃と併せて支払いを受けることが一般的です。管理費・共益費も家賃と同様に、不動産所得として計上することを押さえておきましょう。
駐車場代
経営するアパート・マンションに、入居者用の駐車場を設けている場合も多いでしょう。駐車場の賃貸借契約を結んだ場合に得られる駐車場代は、家賃と同様に不動産所得として計上する必要があります。
なお、所有する駐車場で契約者以外の違法駐車や無断駐車があった場合は、罰金を請求できます。罰金の支払いを受けた場合は、家賃収入ではなく「雑収入(雑所得)」として計上することを押さえておきましょう。
不動産経営の経費になるお金
アパート・マンションの経営によって年間20万円以上の不動産所得がある場合、確定申告を行って所得税や住民税などの税金を納付する必要があります。所得税や住民税の課税額は、売上から必要経費を差し引いた「所得(利益)」をもとに算出します。経費として計上できるものを正しく理解した上で適切に収益を圧縮し、節税へとつなげましょう。
ここでは、アパート・マンション経営において、経費として計上できる項目について詳しく解説します。
一部の税金
アパート・マンションの経営を行う上で必要となる税金の一部は、経費として計上することが可能です。ただし、所得税や住民税など個人の収入・所得に課される税金は経費に計上できないため注意しましょう。経費として計上できる税金については、把握しておくことが大切です。
◆不動産投資で経費に計上できる税金・できない税金
経費計上できる税金 | 経費計上できない税金 |
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減価償却費
減価償却とは、アパートやマンションのように、時間の経過に伴って価値が減少する資産の取得に要した費用を分割し、複数年にわたって少額ずつ計上する会計処理のことを指します。
分割して計上できる年数(法定耐用年数)は法律で定められており、建物の構造によって年数が異なります。法定耐用年数から、新築後の経過年数を差し引いた年数を償却年数として割り、毎年同じ額を減価償却費として経費に計上しましょう(定額法)。減価償却費は、減価償却期間中は経費として計上できるため、長期間にわたる節税効果が見込めるでしょう。
◆【構造別】減価償却における法定耐用年数
建物の構造 | 法定耐用年数 |
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木造 | 22年 |
軽量鉄骨造(骨格材3mm以下) | 19年 |
軽量鉄骨造(骨格材3~4mm) | 27年 |
重量鉄造 | 34年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
管理委託費
アパート・マンションを経営している方の中には、賃貸管理業務を「賃貸管理会社」に委託している方も多いでしょう。賃貸管理会社に賃貸管理業務を委託する際に発生する「管理委託費(管理手数料)」も、アパート・マンション経営における経費として計上することが可能です。
通常発生する管理委託費は、家賃収入の5%程度が相場となります。借主から更新料の支払いを受けた場合に賃貸管理業者に支払う「事務手数料」や、新規の借主が決まった場合に支払う「広告料」も、管理委託費として計上できます。
修繕費・修繕積立費
アパートやマンションは時間の経過とともに劣化・老朽化する資産です。また、突発的な事故や自然災害によって破損や故障が発生する可能性も少なくありません。これらの事情から、アパート・マンション経営においては建物や設備の修繕費を経費として計上できます。
また、将来的な修繕に備えるための「修繕積立費(修繕積立金)」は、積み立てをしている段階では経費として計上できず、資産として扱われます。実際に修繕が発生し、修繕積立費から修繕費を出した場合にはじめて「修繕費」として経費計上できることを押さえておきましょう。
ローン金利
経営するアパート・マンションを取得する際に、不動産の投資用ローン(アパートローン)を組んだ方も多いでしょう。アパートローンを返済する際には、借入金(元本)を分割した金額に加えて、決められた金利のローン利息を金融機関などに支払う必要があります。
アパートローンの元本分は経費として計上できませんが、利息分は経営上必要な経費と見なされるため、経費計上することが可能です。ローンの金利には、金融市場の変動によって金利が変わる「変動金利」と、契約から完済まで一定の金利である「固定金利」があります。それぞれのメリット・デメリットをふまえた上で、自分に合ったタイプを選びましょう。
保険料
アパート・マンションなどの不動産購入の際に、火災保険や地震保険、施設賠償保険などの投資用マンション向けの保険に加入した方も多いでしょう。アパート・マンションにかかる損害保険料は、アパート・マンションを経営する上で必要な経費として計上できます。
保険の契約期間が1年間であり、1年ごとに保険を更新継続する場合は、その年の経費として保険料の全額を計上することが可能です。一方、数年単位の契約の場合は1年あたりの保険料を算出した上で、各年ごとに経費計上しなければなりません。翌年度以降の費用を「前払費用」として資産計上した上で、各年ごとに費用を計上するようにしましょう。
その他雑費
上に挙げた一部の税金や減価償却費などの項目以外に、アパート・マンション経営を行う上で発生した費用を「雑費」として経費計上することも可能です。アパート・マンション経営において雑費として計上できる費用としては、次のような内容が挙げられます。
◆雑費として計上できる費用(例)
交通費 | アパートやマンションの内見、打ち合わせなどで発生したガソリン代、電車代など |
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通信費 | 経営を行う上で必要なインターネット代、通話料、郵送代など |
接待交際費 | 不動産会社の担当者との飲食代など |
消耗品費 | 経営で使用するパソコン、文房具、管理組合の会合で配布する資料のコピー代など |
新聞図書費 | 不動産投資に必要な資料や書籍にかかる料金、セミナーの参加費など |
ただし、雑費は用途が明確ではない経費であり、税務調査の対象となりやすいという注意点もあります。内見で使用した交通費は「交通費」、事務用品の購入費用は「消耗品費」など、なるべく適切な勘定科目で計上し、雑費の金額が多くなりすぎないようにしましょう。
家賃収入にかかる税金の金額は?
アパート・マンションの経営にかかる税金の中には、所得税や住民税のように家賃収入(不動産所得)の金額によって納税額が決まるものがあります。確定申告を行う際には自分で不動産所得を計算し、所得税や住民税の納税額を算出・申告する必要があるため、不動産所得を適切に算出できるようにしておきましょう。
不動産所得は、アパート・マンションの経営で得られた家賃収入(売上)の全額から経費を差し引いて算出します。
不動産所得=家賃収入-アパート・マンション経営に必要な経費
ここでは、上記の式で求めた不動産所得から、所得税や住民税を計算する方法について解説します。
所得税の計算方法
所得税を計算する際には、不動産所得だけでなく、その1年間に得た給与所得や退職所得、一時所得など、総合課税の対象となるすべての所得を合算する必要があります。所得の合計金額から、基礎控除や医療費控除などの各種の所得控除額を差し引いて「課税所得金額」を算出し、課税所得金額に応じた所得税の税率を適用しましょう。
◆課税所得金額に応じた所得税の税率
課税所得金額の所得区分 | 税率 |
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1,000~194万9,000円 | 5% |
195万~329万9,000円 | 10% |
330万~694万9,000円 | 20% |
695万~899万9,000円 | 23% |
900万~1799万9,000円 | 33% |
1,800万~3,999万9,000円 | 40% |
4,000万円以上 | 45% |
出典:国税庁「所得税の税率」
住民税の計算方法
住民税も所得税と同様に、所得の合計金額から各種所得控除を差し引いて求めた課税所得金額をもとに納付額を算出します。まず、課税所得金額に所得割の税率(個人=10%)を適用し、税金控除額を差し引いた上で所得割額を決定しましょう。これに均等割額(5,000円)を加えた金額が、住民税の税額となります。
◆住民税額の算出方法(個人)
住民税の所得割額=(所得の合計額-所得控除)×0.1-税額控除
住民税額=所得割額+均等割額(5,000円)
出典:総務省「個人住民税」
確定申告で行える家賃収入の税金対策
家賃収入にかかる所得税や住民税などの税金負担を軽減したい場合は、確定申告の際にいくつか工夫を行い、税金対策を講じておくことが大切です。
◆確定申告の際にできる家賃収入の税金対策3つ
- 経費をすべて計上する
- 青色申告を行う
- 損益通算を行う
ここでは、上記の税金対策について詳しく解説します。確定申告の際に適切な処理を行い、節税へとつなげましょう。
経費をすべて計上する
アパート・マンション経営にかかるお金の中には、経費として計上できる費用も少なくありません。固定資産税などの税金や建物・設備の減価償却費、管理委託費など、アパート・マンション経営の経費として認められるものは適切に把握し、忘れずに経費計上しておきましょう。
また、アパート・マンション経営に関係する雑費(交通費・通信費・消耗品費など)も、経費として計上することができます。領収書や「誰とどこで何をしたときの支出か」などの記録を帳簿とともに残しておきましょう。
青色申告を行う
不動産所得の確定申告には「白色申告」と「青色申告」の2種類の申告方法があります。青色申告は白色申告と比べて満たすべき条件が多いという注意点もありますが、税制上のメリットも大きいため、なるべく青色申告を選ぶようにしましょう。
◆青色申告を行う4つのメリット
(1)青色申告特別控除 |
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事業的規模の不動産収入がある場合、青色申告で確定申告を行うと、不動産所得から最高55万円の青色申告特別控除を受けられます。なお、電子帳簿保存やe-Taxによる電子申告を行っている方は、最高65万円の青色申告特別控除を受けられる点も押さえておきましょう。ただし、65万円の控除については個人事業主のみであり、法人には適用されないため注意が必要です。また、一定の条件を満たした方のみ65万円の控除を受けられます。 |
(2)青色事業専従者給与 |
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青色申告を行う方と同一生計であり、不動産経営の業務に専従している15歳以上の家族に給与を支払う場合、一定の範囲内であれば給与を経費に算入できるという制度です。ただし、青色事業専従者として給与を受け取る方は、控除対象配偶者や扶養親族になれない点に注意してください。 |
(3)貸倒引当金 |
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アパート・マンション経営では、借主の自己破産や夜逃げなどで滞納分の家賃を回収できない事態も想定しておく必要があります。貸倒引当金とは、回収不能になった家賃などによる損失を見込んで設定する費用のことです。青色申告を行う場合、年末における貸金の帳簿価額(合計額)の5.5%以下の金額を経費として計上できます。 |
(4)純損失の繰越し・繰戻し |
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アパート・マンション経営で赤字が出てしまった場合、青色申告者は純損失を最大で3年間繰越し・繰戻しすることができます。 |
ただし、青色申告を行うためには一定の条件を満たす必要があり、確定申告の手続きも白色申告より手間がかかる恐れがある点に注意が必要です。
◆青色申告を行うために満たすべき条件
- 青色申告承認申請書を管轄の税務署に提出する
- 事業規模のアパート・マンション経営を行う(目安:5棟10室以上、一定以上の家賃収入など)
- 複式簿記による記帳を発生主義で行い、賃借対照表や損益通算書も作成する
- 確定申告期間に必要書類をすべて提出する
出典:国税庁「青色申告制度」
損益通算を行う
アパート・マンション経営における「損益通算」とは、不動産所得が赤字になってしまった場合に、他の黒字所得から赤字分を差し引いて課税所得額を計算することです。給与所得者や、不動産経営以外の事業所得がある経営者などは、これらの所得から不動産所得の赤字分を差し引けます。損益通算を行うことで、所得税や住民税などの節税につなげられるでしょう。
ただし、不動産所得の金額の損失のうち、次のような項目は損益通算の対象外となる点に注意しましょう。
◆損益通算の対象外となる損失
- 別荘など、主に趣味や娯楽などの目的で所有する物件の貸付けに関する損失
- 土地の取得に要した借入金の利子
法人化で行える家賃収入の税金対策
家賃収入を含む個人の所得が高い方は、アパート・マンション経営を法人化することも1つの方法です。アパート・マンション経営の法人化とは、新しく設立した会社にアパート・マンションを所有させることです。
個人事業主としてアパート・マンション経営を行う場合、家賃収入はオーナーの個人所得となるため、所得税や住民税はオーナー個人が負担します。例えば不動産所得の課税額が1,000万円である場合、所得税と住民税を合わせると課税所得に対して43%の税金が生じます。
出典:国税庁「所得税の税率」
出典:総務省「個人住民税」
一方、アパート・マンションを法人化した場合、オーナーは法人から給与を受け取る形をとります。会社には法人税や法人住民税などがかかりますが、資本金1億円を超える法人の場合の実効税率は概ね35%程度となります。家賃収入の金額にもよりますが、個人で経営を行うよりも税制上で有利になるケースも少なくありません。
法人化を検討するタイミング
アパート・マンション経営の法人化を効果的に行うためには、適切なタイミングで会社を設立することが大切です。アパート・マンション経営の法人化を検討するタイミングとしては、次のような基準が考えられます。
◆アパート・マンション経営の法人化を検討するタイミング
- 課税所得が1,000万円前後になったとき
- 3年以内に相続の予定がないとき
- アパート・マンション経営を事業規模で展開していくとき
不動産所得を含む合計所得金額が1,000万円程度になると、個人で納める所得税の税率よりも法人が納める法人税などの税率のほうが低くなります。
また、法人が取得したアパート・マンションを取得から3年以内に相続する場合は、相続税の減額ルールが適用されないため、相続税対策になりにくいことに注意しましょう。
法人化のその他のメリット
アパート・マンション経営を法人化することには、不動産所得にかかる税金の節税以外にも多くのメリットがあります。
◆その他の法人化のメリット
(1)所得分散効果 |
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法人化して家族を役員にすることで、法人の経費から役員報酬を家族に支払えます。不動産所得を複数人で分割できる上に、給与所得控除も利用でき、一人ひとりの所得税率を低く抑えられるでしょう。 |
(2)経費として認められる範囲が広い |
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法人の場合、出張手当や法人保険の保険料など、数十~数百万円単位の出費も経費として認められやすいというメリットがあります。また、法人の場合は10年以内に発生した赤字を繰り越し控除することも可能です。 |
出典:国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」
(3)相続対策になりやすい |
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法人化して株式会社を設立しておけば、アパート・マンション経営に関連する遺産は「株式」となるため、相続人間で分割しやすくなります。また、オーナーが出資せず相続人だけで法人を設立し、建物をオーナーの遺産から外すという方法もあります。 |
家賃収入のその他の税金対策
家賃収入にかかる税金を抑える主な方法について解説してきましたが、上述の方法以外にも、家賃収入にかかる税負担を減らす方法はいくつか存在します。
◆確定申告や法人化以外で行える節税対策
- 小規模企業共済に加入する
- 管理会社を設立する
- 中古アパートを購入する
- iDeCoに加入する
- 専門家に相談する
ここでは、上記の5つのポイントについて詳しく説明します。
小規模企業共済に加入する
小規模企業共済とは、小規模企業の経営者や役員、個人事業主が退職・廃業したときに、積み立てた掛金に応じた共済金を受け取れる共済制度のことです。小規模企業の事業主や個人事業主が将来の備えとして活用できる退職金制度とも言えるでしょう。
小規模企業共済に加入するメリットとして、掛金の全額を課税所得から控除できる点が挙げられます。掛金は月額1,000円から7万円までの範囲で自由に設定できるため、うまく活用すれば所得税の節税につながるでしょう。
また、共済金を受け取る際にも所得控除の適用を受けられます。一括で受け取る場合は退職所得控除、分割で受け取る場合は公的年金等控除に該当することに留意しましょう。
管理会社を設立する
「アパートやマンションにローンが残っており、法人への譲渡が難しい」「法人名義にする際の費用が負担である」などの理由から、法人化を迷っている方もいるでしょう。このようなケースでは、建物をオーナー個人の所有としたまま、アパート・マンションの管理業務を行う「管理会社」を設立することも1つの方法です。
管理会社を設立すると、不動産所得の一部を管理料として法人に支払い、個人側では経費として計上することになるため、個人の課税所得を減らせます。ただし、管理料は家賃収入の5%程度が相場であり、ある程度の事業規模がないと会社運営が成立しなくなる恐れがあることに注意してください。
中古アパートを購入する
短期間で大きな節税効果を得たい場合は、新築の物件よりも減価償却の期間が短い中古物件を購入することも1つの方法です。アパートなどの固定資産には法定耐用年数が定められていますが、すでにこの法定耐用年数を超えている物件の場合、法定耐用年数の20%が減価償却の期間となります。
例えば、法定耐用年数22年の木造アパートを、築28年の時点で購入した場合を考えてみましょう。「22年×0.2=4.4年」の端数を切り捨てるので、減価償却で用いる耐用年数は4年となります。この物件を3,000万円で購入したとすると、4年間にわたって毎年750万円の減価償却費を計上することが可能です。
この仕組みを活用すれば、償却期間中は課税所得を大幅に減らし、所得税や住民税を節税できます。税務上は赤字でも手元には家賃収入の一部を残せるため、償却期間中に資金を貯めておくこともできるでしょう。
iDeCoに加入する
本業が会社員であり小規模企業共済に加入できない方や、小規模企業共済に加えて将来の備えを検討したい方には、個人型確定拠出年金(iDeCo)への加入もおすすめです。iDeCoとは、毎月の掛金を投資資金として自分で選んだ運用商品で運用する年金制度を指します。
iDeCoも小規模企業共済と同様に、掛金の全額を課税所得から差し引けるため、所得税や住民税の節税につながります。また、「運用益が非課税になる」「受給時に所得控除が受けられる」といったメリットもあります。
専門家に相談する
確定申告を適切に行いつつ、実践できる節税対策に可能な限り取り組みたい方は、税金の専門家である税理士に相談することも1つの方法です。アパート・マンション経営に詳しい税理士に業務を依頼すれば、より効果的な節税対策を提案してもらえるでしょう。
また、税理士と契約して確定申告書類の作成などの確定申告業務を依頼すれば、より信用度の高い申告書を作成してもらえるというメリットがあります。税務調査のリスクも低減できるため、税金に対する不安のある方は顧問税理士との契約を検討するとよいでしょう。
アパート経営そのものは税金対策になる?
アパート・マンション経営での税金対策について解説してきましたが、アパート・マンション経営自体が節税につながるケースも少なくありません。制度をうまく活用すれば、相続税や贈与税、固定資産税・都市計画税の節税が見込めるため、十分に理解した上で対策に取り組みましょう。
ここでは、アパート・マンション経営を行うことで取り組める節税対策について解説します。
相続税の節税
相続税とは、相続財産の評価額の合計額が相続税の基礎控除額を超える場合に、課税価格に応じた税率で納める必要がある税金のことです。アパートやマンションを相続する場合、相続税評価額は実勢価格より下がるため、現金をそのまま相続するよりも相続税を大幅に節税できるでしょう。
また、アパートやマンションの取得費用としてローンを組んだ場合、ローンの残額は相続税の評価額から控除できます。この制度をうまく活用すれば、相続税の評価額をさらに減額することもできるでしょう。
出典:国税庁「相続税の税率」
贈与税の節税
贈与税とは、個人(贈与者)から個人(受贈者)への1年間の贈与の合計額が基礎控除額を超えた場合に、その金額に応じてかかる税金のことです。相続税の場合と同様に、アパートやマンションは課税評価額が実勢価格よりも下がるため、現金を贈与する場合と比べて贈与税を抑えられるでしょう。
贈与税の課税方法には、贈与の年間合計額が基礎控除110万円を超えると課税される「暦年課税」と、特別控除2,500万円を超えると課税される「相続時精算課税」があります。一般的には相続時精算課税のほうが節税効果が高いように思われがちですが、実際には相続税額が暦年贈与を選択した場合よりも高くなる可能性もあることに注意してください。
固定資産税・都市計画税の節税
住宅用として使用していない更地を所有している場合、土地活用としてアパートやマンションを建てて住宅用地とすれば、固定資産税や都市計画税を節税することができます。
◆住宅用地の特例措置
固定資産税 | ||
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小規模住宅用地 | 住宅一戸あたり200平方メートル以下の部分 | 課税標準の1/6 |
一般住宅用地 | 住宅一戸あたり200平方メートルを超える部分 | 課税標準の1/3 |
都市計画税 | ||
---|---|---|
小規模住宅用地 | 住宅一戸あたり200平方メートル以下の部分 | 課税標準の1/3 |
一般住宅用地 | 住宅一戸あたり200平方メートルを超える部分 | 課税標準の2/3 |
まとめ
家賃収入には所得税や住民税がかかりますが、必要経費をきちんと計上し不動産所得を抑えることで節税につながります。不動産所得が赤字になった場合は、他の黒字所得と損益通算を行うとより合計課税所得を減らせます。また、確定申告時に青色申告を行うと、特別控除を受けられたり赤字の繰越を行えたりする点も覚えておきましょう。
家賃収入に対する税金対策にはさまざまな方法があるため、自分が信頼できる専門家に相談をしながら不動産経営を進めていくことが大切です。
この記事の監修者
白坂 大介
保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士 | 宅地建物取引士 | 住宅ローンアドバイザー | 証券外務員1種
経歴
大阪市東淀川区 出身
上宮高等学校 卒業
京都産業大学 経営学部 卒業
- 2004年
- ハウスメーカーへ入社
- 2008年
- ファイナンシャルプランナー取得
- 2009年
- 総合保険代理店へ入社
- 2010年
- FP Office Shirasaka 開業
- 2013年
- ジョインコントラスト株式会社 設立